ジャズは演奏するともっと楽しい!?

~ジャム・セッションのすゝめ~

 

古川 比良介(ライター)

 

 ジャズ好きのみなさんの中には、ジャズを演奏したい、あるいは歌いたいと思っている人も多いのではないだろうか。今はお休みしているけど、昔はクラシックやポップスを演奏していたという方も多いだろう。

 そんな方々には、是非「ジャム・セッション」(以下、「セッション」という)への参加をお勧めしたい。なぜなら、ジャズは聴くだけでも楽しいけれど、自分で演奏するともっと楽しい音楽だからだ。

 

 さて、セッションとはいったいどのような場なのか?

 音楽を演奏する人(プレイヤー)とそれを聴く人(リスナー)が分かれているライブと異なり、セッションはプレイヤーが集まって演奏をするイベントだ。誰が来るかは行ってみないとわからない。まさに「一期一会」の時間である。

 

 セッションは、ライブと同様、ライブハウスで行われる。中にはスタジオを借りて行う「プライベート・セッション」もあるが、とりあえず脇に置いておこう。

 参加費は1,000円から2,500円といったところだ。

 

 セッションには「ホスト」と呼ばれるプレイヤーたちがいる。ホストといってもホストクラブのホストとはまるで違う人種で、彼らはセッションの司会進行役を務めたり、演奏の際に足りない楽器を補ったりする。

 

 セッションの進行方法はお店やホストの意向によって大きく異なる。ホストが演奏者を細かく指名するセッションもあるし、「この曲を演奏できる人はご自由にどうぞ」というような緩いセッションもある。ホストのバンドに参加者が一人ずつ加わる形式のこともあるし、ボーカリストが主役の「ボーカル・セッション」もある。海外では自分から手を上げないといつまでも演奏の順番が回ってこないセッションも多いそうだ(新潟ではまだお目にかかったことがないが。)

 複数のセッションに行ってみて、自分に合う雰囲気のセッションを見つけるのがいいだろう。

 

 2016年4月現在、古町周辺で定期的にセッションを行っている店は、私が知っている限り次の4店舗である。

 

 「スワン」(西堀通)

 「フラッシュ」(東堀通)

 「マッシュ」(東堀通)

 「本町通八」(本町通)

 

 ここに新潟市東区の「フラワー・ポップ」、新発田市の「バード」、長岡市の「音食」を加えて紹介しておこう。

 

 初めての方は、まずは見学してみることを勧めたい。様子がわかったら、勇気を出して参加してみてはいかがだろうか。そのときは、ホストか店員に「セッションの参加は初めてなのですが」と一声かけるといいだろう。

 

 そして「ジャズは好きだが、演奏する気はない」という純粋なリスナーの方にも、是非セッションに足を運んでほしい。なぜなら、セッションではミュージシャンの生身の姿を見ることができるからだ。

 あらかじめ綿密に準備されたライブと違って、トラブルやハプニングが起こることも多いだろう。だが、それもジャズという音楽の楽しさの一部なのである。

 

2016.4.30


「フルマチ・アクセント」

 

伊藤 学

 

 

 辛くて黄色くてご飯にかけて食べるものなーんだ?というクイズを出されたら長く新潟に暮らしている方は気をつけた方がいいでしょう。

 うっかり「カレー!」と答えるとその場で宴会が始まり酒の肴に吊るしあげられることになりかねません。

 

 「クラブ」か「クラブ」か。

 つまり発音のどこにアクセントを置くかが日本語ではとても重要な要素だけれども、新潟県の多くの人は「カレー」の「カ」にアクセントを置く傾向があるらしいのです。僕自身「カレー」を「踊ったりするクラブ」の「クラブ」のように発音することにかすかな照れ臭さを感じてしまうところがあります。

 

 他の例を挙げてみましょう。

 運動会やお祭りで気合を入れるために頭に巻いて締め付けるやつなーんだ?

 「ハチマキ」

 中には「ハーチマキ」くらいハッキリと「ハ」にアクセントを置いてしまう人がいるはずです。

 僕がそうです。

 「ほれハーチマキ忘れんなて」と運動会の朝に母親に言われたことがある方も多いと思います。

 僕がそうです。

 

 椅子のことは「イス」と、「イ」にアクセントを置きます。包丁は「ホ」に、田んぼは「タ」に、電車は「デ」…ってな具合です。

 

 さて、並べてみますと、「カレー」「ハチマキ」「イス」「ホウチョウ」「タンボ」「デンシャ」。

 

 生活に密着していて、取るに足らない、特にどうってこと無い存在感が漂う物に対してこういうアクセントをつけたくなる越後人の心情をホンワカと感じてしまうと言ったらこじつけ過ぎでしょうか。

 

 実際それぞれの発音をアクセントを平坦気味に言うことも出来ます。

 カレーをカレーライスのライスを取ったような言い方で「カレー」と言うとなんだか高級感が出てきてじっくり炒めた玉葱と30種類のスパイスがどうのこうのとか、ちょっと違うんだな…と残念な気持ちに僕はなってしまいます。

 

 さて、これは地名にも当てはまるのかもしれません。

 例えば長岡市に古正寺「コショウジ」と言う近年急速に商業地域になった場所がありますが、人によってアクセントがどうやら違うようです。古くから長岡市に住んでいる人は「コ!ショウジ」と言うようですし、最近は「コショウジ」と平坦に言うケースが一般的になっていると思います。平坦にコショウジと言うとじっくり炒めた玉葱と30種類のスパイスの香りがしてきます。 

 

 新潟の地名をちょっと並べてみます。まず、アクセントが先頭に来ない、平坦な方からほんの一部ですが、羅列してみます。

 

ニイガタ

ヌッタリ

ニシボリ

テラオ

ヨシダ

マキ

ナガオカ

ナオエツ

クロサキ

メイケ

サクラギ

ベンテン

タケオ

エビガセ

ヒトイチ

ニゴリカワ

ケイバジョウ

トヨサカ

ヒガシコウ

ハスノ

セイロウ

 

 さて、アクセントが先頭に来る新潟の地名はこちらです。

 

カモ

サンジョウ

ミツケ

ブンスイ

バンダイ

ホンチョウ

ソネ

サド

コバリ

シバタ

 

 ミツケ、ブンスイ、ホンチョウは固有名詞では無いとも考えられます。一般名詞が後に地名になってしまったケースであり、アクセントが先頭に来る地名の一つのパターンかもしれません。先ほどのケイバジョウも本当に地名として定着したら、アクセントは先頭に来る事になるのでしょう。

 

 それを除くとアクセントが先頭に来る地名は、少ないです。い出す地名思い出す地名がほとんど該当しません。

 

 さて、「フルマチ」です。お待たせいたしました。だいぶこじつけました。

 

 たまに観光客の方で間違ったアクセントでおっしゃる方がいますが、フルマチのアクセントは先頭、「フ」に置きますのでお間違えないようにくれぐれもお願いいたしますよ。

 

 だけど先ほどの古正寺の例のように、急に存在感が変わると呼び方も変わっていくケースが実際にあります。

 

 今後「フルマチのジャズ」が注目を浴び「世界から見たフルマチ」の位置付けが変わったときにはアクセントも自ずと変わってしまうのかも知れません。

 

 どう変わっていくのか。楽しみながら僕も関わっていきたいです。

 

2016.4.28


 

小濱安浩&ジェイ・トーマス・クインテット(2016年4月1日、フラッシュ)

 

古川 比良介(ライター)

 

小濱安浩(テナーサックス)、ジェイ・トーマス(トランペット、フリューゲルホーン、テナーサックス、フルート)、水野修平(ピアノ)、島田剛(ベース)、倉田大輔(ドラム)

 

 テナーサックス奏者、小濱安浩と、マルチ奏者のジェイ・トーマスのバンドをフラッシュで聴いた。

 

 名古屋を中心に活動する小濱は、1989年結成のビッグバンド「C.U.G.ジャズ・オーケストラ」のリーダーだ。今回のメンバーは全員が「C.U.G.」のメンバーでもある。

 

 ピアノの水野修平は小濱と同じく名古屋で活動しており、ドラムの倉田大輔は東京を中心に活動しているが、やはり愛知県で育った。「名古屋」がこのバンドのキーワードの一つ、というわけだ。名古屋のジャズシーンは、東京や関西と比べれば注目されることが少ないが、実力派がそろっていることが窺われる。新潟にいながら名古屋の一流プレイヤーの演奏を聴けるのは、なかなか貴重なことである。

 

 小濱のサックスはオーソドックスを基礎としているが、けして吹きすぎず、スペースを活かした演奏に個性を感じる。そして何より、デクスター・ゴードンやジョー・ヘンダーソンを彷彿とさせる図太いサウンドが魅力だ。音を聴いただけで「参りました」と言いたくなる。これぞジャズのテナーサックスである。

 

 もう一人のリーダー、ジェイ・トーマスは、トランペットの他にフリューゲル・ホーン、サックス、フルートを完璧に演奏するマルチ奏者だ。サックス、クラリネット、フルートなどは比較的持ち替えが容易であるが、トランペットとサックスの持ち替えはほとんど聞いたことがない(アイラ・サリヴァンくらいか。)どの楽器も非常に高いレベルで吹きこなすことに驚かされた。ソプラノやアルトも吹くそうだが、今回はサックスはテナー1本だった(新潟まで運ぶには重すぎる、というのが理由である。)

 

 小濱はテナーサックスを吹いているから、ジェイがトランペットを吹けばジャズの王道である2管サウンドを、テナーサックスを吹けば「テナー・バトル」を楽しめるわけである。ときには曲の途中で持ち替えることもあり、バリエーションがあって楽しませてくれる。

 

 島田のベースは派手さはないが、堅実で生音が大きい、ベースらしいベースだ。そしてピアノの水野、ドラムの倉田との一体感が素晴らしく、3人でガッチリとバンドを支えていた。「リズム・セクションというのは家族なんだ。だから音楽的にも人間的にお互いに繋がっていることが大切なんだ。」ジェイはそう語っていたが、フロントの2人が自由に演奏できるのは、バックの3人の信頼関係ゆえだろう。

 

 2年に一度は「フラッシュ」で演奏しているというこのバンド、次に聴ける日が今から楽しみだ。さらには「C.U.G.」の新潟公演もいずれ企画していただきたいものである。

 

2016.4.6


 

マイク・モラスキー教授講演会「日本のジャズ文化と居酒屋文化」(2016年3月26日、新潟国際情報大学)

 

木根渕 猛(NBSJ(新潟バーボンストリートジャズ)事務局代表、フィッシャーマンズ酒場きね店主)

 

 昨年の9月17日、ギタリストの萩原くんが「よもぎや」で飲んだ帰りに店に寄り、「JAZZピアニストで赤提灯と日本酒にも造詣が深い早稲田大教授のマイク・モラスキーという方がいます。きねにピッタリかと。」

 へーと言いながらスマホで検索するとマイク・モラスキーのブログが見つかり、問合せアドレスも出ていたので、その場で新潟招聘依頼のメールを出すと、モラスキーさん(以下、モラさん)から翌日に返事が来ました。

 新学期で忙しく行けないというお断りの返事でした。

 

 それから数回のやり取りで、12月に「演奏は別の機会で、講演だけなら3月なら行けます」というOKが貰えたのです。

 一面識も無く、誰からの紹介でもなく、只の見知らぬ得体の知れない呑み屋の親父のメールに呼応して講演を承諾する事はまずあり得ない、とモラさんと親しい井上さん(吉祥寺『ハモニカ横丁』物語、図書刊行会、著者)が言っていました。

 「親しみ」を込めて、「拝啓、マイクさん・・・」とメールを書いていたら、「日本暮らしが長いせいか、名前で呼ばれるのに違和感を覚えます、モラスキーか呑み屋での通称モラさんと書いてくれ。」

 なにやら結構面倒くさい親父だな(笑)と感じつつ、連絡を取り合い、知人の越智先生の協力もあり講演が実現した次第です。

 

 赤提灯の話を始めたら、寝袋持参で泊りがけでも話せると自負するモラさん、落語好きというだけあって、話の間の取り方は上手でした。

 赤提灯を都市社会学的に考察すると、第一義的な「家庭」でもなく、第二義的な「職場」でもなく、「第三の場所」という概念の位置づけになる。

 社会的地位も関係なく、極端な話、よく見かける常連同士の名前も知らない事などざらにある赤提灯は、店主との微妙な緊張関係の中に成立するこよなく心地よい場所、「第三の場所」ということになる、という講演趣旨でした。

 

 赤提灯の典型的な構造的特徴は、TV「深夜食堂」を連想すればよく分かる、「コの字」型のカウンターにあります。

 互いに顔が見え、お互いの話が聞こえてくる、反対側の話に思わずこちらもにんまりしてその相手と目が合い、互いに納得する。

 そんな光景が赤提灯には普通です。

 

 また、赤提灯には排他性があり、いわゆる「一見お断り」という風習も散見する。

 「誰かの紹介?」「あれ、あの、佐藤さん、ネクタイ締めた会社員の佐藤さんの紹介だよ~」と言えばよかった、と店を追い出されてからそんな嘘を思いついたと残念がるモラさん、やはり赤提灯研究家らしい逸話も紹介していました。

 

 SNSが発達した現代、「食べログ」公害が社会問題化しているという指摘もありました。

 行ったこともない店の情報が簡単に入り、都市部近郊のマイナーな「有名店」に一見客が殺到し行列をつくる、そんな光景が良く見られるようになった問題は深刻です。

 店主と地域の常連が時間をかけて作り上げてきた赤提灯文化を「食べログ」が破壊する、と警告していました。

 いわば、固有文化の赤提灯がテーマパークのようになってしまう、有名赤提灯めぐりの「スタンプラリー」なる現象も見られると嘆いていました。

 

 司会の越智先生も、最後のまとめで、「めん処くら田」を食べログに載せた奴の気が知れない、と怒りを露にされていたのが印象的でした。

 安易に食べログに投稿する行為は、貴重な赤提灯文化を破壊する行為にもなる危険性があることを認識する必要があるようです。

 

 JAZZ喫茶に行ったことがある人?とモラさんが聞くと、ほぼ全員が手を上げました。

 さすが新潟とモラさんは感心していました。

 全国のJAZZ喫茶を取材調査したモラさん、新潟でもスワン、フラッシュ、A7と足を運んでいます。

 

 JAZZ喫茶の特徴は、音響へのこだわり、非日常的な巨大なスピーカーシステムが生み出すリアルな音響にあり、アメリカのJAZZプレーヤーが来日して聴いたJAZZ喫茶の「リアルな」演奏はそれまで聞いたことが無いようなすばらしいJAZZ音響だった、という話を紹介していました。

 ある意味、レコードまたはCDを媒体に再構成された「リアルな」演奏は、薄暗く会話も無い、全員が巨大スピーカーに向かって座る特異な空間のJAZZ喫茶固有の、生演奏を「超越した」音楽なのです。

 

 印象的だったのは、JAZZ喫茶店主に見られるような「こだわりの音響マニア」に女性は居ない、という指摘でした。

 確かに、女性音響マニアは稀有かもしれません。

 やはりJAZZ喫茶は、赤提灯同様に「第三の場所」であることに間違いないようです。

 

 後で、私が「赤提灯とJAZZ喫茶に共通するのは、こだわり、だね」というとモラさんも納得していました。

 赤提灯の親父も、JAZZ喫茶の店主も、「こだわり」のマニアという特徴で共通していると私自身自覚しています。

 

 今度は、モラさんはJAZZピアノを演奏しに、ゆっくりと新潟に来られるそうです。楽しみですね、「赤たぬきJAZZライブ&飲み放題」でモラさんと皆で乾杯しましょうか!

 

2016.4.3


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